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 滝川との関係を問われたなら、綾子は「同業者」と答えるだろうし、それは滝川も同じような答えになるだろう。尤も、彼の本業はスタジオ・ミュージシャンだから「拝み屋関係」とでも言うかも知れない。とにもかくにも、二人の関係は「仕事仲間」。それ以上でも以下でもなく、出会った頃からそこに変わりはない。あえて言うならば、いつの頃からか「男女関係」が追加されたということだった。
 それが一体いつからなのか、今の綾子には最早思い出せないことだった。何故そんなことに、と問われたら、それこそ事が起こった当初から、綾子は理由が全く分かっていない。滝川の方には契機となることがあったのかも知れないし、もしかしたら滝川も良く分かっていないのかも知れなかった。
 あの日も、今までとは何ら変わりのない日だったと、綾子は思う。いつものように飲みながら、互いに話をしていただけだ。おぼろげながらも綾子が覚えているきっかけは、しこたま飲んだ帰り際、彼と真っ直ぐに目が合ったことだった。ゆらりと近づいてきた彼の顔を見て、綾子は反射的に目を閉じた。
 これはまずい。そう頭の中で警鐘が鳴らされたのは、視界が消えたのに一拍遅れて口唇が触れた時だった。
 綾子は、自分を安売りするような女になるのは端から御免だった。一体何を思ってか、綾子に付き合った男の数を聞いては自分の方が多いと自慢するような女が寄ってくることも多かったが、単なるお門違いでしかない。
告白された数ならともかくも、付き合った男の数が多いということは、それすなわち別れた男の数も多いということで、それは裏返してみれば単に自分に男を見る目がないか、自分が愛想を尽かされたかのどちらかでしかないということだ。少なくとも、綾子はそう思う。
 だから実は、綾子は周りから思われているよりもずっと、付き合ってきた男の数も少なかったし、男を知っている訳でもなかった。
 そんな綾子でも分かった。本能的に感じ取ったと言っても良い。たったキスひとつで、分かってしまった。彼と身体の相性が良いだろうことを。
引き返すなら、その時だった。なけなしの正気と理性を振り絞って、突き飛ばすなり、叩くなり、わめくなり、すれば良かったのだ。そうして、酒で酔って覚えてないと、とぼければ良いだけの話だった。
 けれど綾子は出来なかった。ただそれだけのことが、他の男だったら出来たであろうことが、出来なかった。滝川のことを憎からず思っていたのも、きっとある。その時、意識はしていなかったけれど。酔っていたとはいえ、恐らく滝川も、何がしかの綾子からの怒りの反応を覚悟の上での行為だったのだろう。目を開けた綾子の前にあったのは、少し目を見開いて驚いたような表情の滝川の顔だった。
「何よ、自分から仕掛けておいてその顔は」


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